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第12話 「閑話休題(添加剤のお話し)」

(作成:1998年12月8日 改訂:2006年9月17日)

(TEXT : OZW / E34-ALPINA B10 Biturbo & E32-750iL )


エンジンオイル添加剤、一度は使ってみようと思ったことがあるのではないでしょうか。
実際に使ってみた人も多いと思います。
効果のあった人、なかった人、かえって調子が悪くなったという人もいますね。
今回は、ちょっとショッキングなことを書いてみようと思います。
知ってる人はいっぱいいるはずなのに、誰も書かないので、仕方なく私が嫌われ者に なりましょうということです。(笑)



巷のエンジン添加剤のほとんど、特にテフロン系のは全部インチキです。
断言します。




そもそもテフロンの開発者であるデュポン社は「テフロンはオイル添加剤の原料として 使うべきではない」と正式にコメントしています。
また、テフロン/PTFEの効力については、1991年にアメリカ軍が実際に検証し、 オイル添加剤の原材料には相応しくないという結果が公表され、「軍事施設に は一切使用していない。」と正式に発表されています。
自動車大手メーカーのGMは、調査の後 1993年にはテフロン/PTFE入りの添加剤を 使用した車は、例えディーラー保証期間中であっても保証対象外になることをアメリカ 国内全土のGM車販売ディーラーに通達しています。
BMW も私の持っている E32 750iL のオーナーズマニュアルには、 「エンジンオイルには、いかなる添加剤も使用してはならない」 とはっきり書いてあります。

理論的に考えてもテフロンがエンジンの潤滑に向かないことは明らかです。
金属同士の潤滑には流体潤滑、境界潤滑、極圧潤滑、固体潤滑などがあり、この中で もっとも摩擦が小さく摩耗が少ないのは流体潤滑で、これは油膜を維持し金属同 士の接触が発生しない状態での潤滑です。
そのため、シリンダー内面には油膜を保持するためクロスハッチと呼ばれる非常に細かい傷が 斜めに「わざわざ」入れられているのですが、添加剤メーカーの主張通り これらの溝がテフロンで埋められてしまったら、オイルが保持できなくなって油膜切れを を起こします。

ここで重要なのは、完全にテフロンコーティングされた金属同士の摩擦(個体潤滑)より、 間に油膜を保持し金属同士が接触しない時の摩擦(流体潤滑)の方が、遙かに 抵抗が少ないということです。
実際、車の中でも極圧潤滑や個体潤滑は、デフやギアの軸受けなど流体潤滑が使えない場所に 限って、「仕方なく」使われているわけです。
しかも、この場合にも潤滑剤としては、リン系、塩素系、硫黄系などの極圧潤滑剤や二硫化 モリブデンなどが使われていて、テフロンは使われていません。
なぜなら、添加剤メーカー自身が認めているように、高荷重時の潤滑にテフロンは定着 しないからです。
つまり、流体潤滑が正常に行われているエンジン内部においては、そこにテフロンにせよ チタンにせよ、あるいは共晶膜とかが金属表面にどう定着しようが、油膜保持 に悪影響を及ぼすことはあっても、摩擦特性にプラスに働くことはあり得ない上、ギアや デフの極圧潤滑にもテフロンは役立たずなのです。
特にエンジンに限って言えば、いくらテフロンが摩擦特性に優れるからと言って、わざわざ 流体潤滑を阻害してまで金属同士を接触させるような個体潤滑にする必要 がなぜあるのか。
ナンセンス以外の何者でもありません。
また、スベリ速度が変化する(おむすびが回るので)カムシャフトまわりは、条件が厳しくて 一部境界潤滑領域に入ることが知られています。
従って、どんなオイルにも元々入れられている摩擦係数に関する添加剤は、この領域でこそ 性能を発揮するものが求められます。
ところが、マイクロ○○の説明書にもある通り、「大きな圧力がかからない場所において 効果は半永久的」とか「面精度が高い場所にテフロンは定着できない」とある ように、ここでもテフロンは役に立ちません。

先日、よく遊びに行く整備工場でポルポル924のエンジンをオーバーホールしていました。
この車、オイル交換の度に、ご丁寧にマイクロ○○を入れていて(3回連続して入れたそうです)、 前回の交換後初めてサーキットを走ったら油膜切れを起こして焼き付 いてしまったものです。
原因がマイクロ○○かは、この際置いておくとして、いくつか面白いことが発見できました。
まず、ピストンリングやシリンダーの壁面は、テフロンコートされたフライパンみたいに オイルが玉になってコロコロ転がるなんてことは全然なくて、幸い(?)油膜 はちゃんと保持されていました。
クロスハッチの溝をテフロンが埋めるということは全然なくて、宣伝文句にある金属表面 に定着して云々というのは、少なくともこの車には全く見られませんでした。
次に気づいたのは、レッドライン15W-50という固めのオイルに交換してまだ100Kmも走って いないにもかかわらず、手で触った感じは、ほとんど水に近いようなシャビシャビになって いたことです。
クーラントと混ざった形跡はありませんでした。
ちなみに、ここの親父さんが言うには、深夜番組でよくやっているモーター○o○が入ってた やつは、逆に粘度が上がっていたということです。

この辺に添加剤の秘密があるように思えました。

実際にマイクロ○○などをエンジンに添加すると、回りが軽くなってトルクアップした 感じがする、燃費が向上した、などという報告も数多くあります。
流体潤滑では、摩擦係数はオイルの粘度に比例するわけですから、これらの添加剤が、オイル の粘度を下げる効果を持っているとすると、こういう現象とも符合するわけです。
しかし、むやみ安易に添加剤で粘度を下げることは油膜切れを引き起こし、エンジンに ダメージを与えます。
低粘度オイルでのこういうレスポンスを求めるなら、最初から信頼できるメーカーの 5W-30など といった化学合成オイルを使うべきです。
添加剤を混入する以上の効果があるはずです。

エンジンオイルは、それ自体添加剤の固まりだと言って過言ではありません。
ベースオイルに粘度調整剤、酸化安定剤、消泡剤などなど、オイルメーカーが日夜研究し、 彼らが最高と考えるバランスで調合されています。
敢えてこのバランスを崩すメリットがあるとしたら、サーキット1周目はどんなオイルより タイムが出るけど、2週目には焼き付くよ、などという、オイルメーカーが 恐ろしくてとても作ることの出来ないオイルを自作できるということぐらいでしょうか。(笑)

なお、アメリカでは最近になってようやくFTC(Federal Trade Commission:米国連邦取引委員会) が粗悪商品を製造しているメーカーを訴えて多額の罰金を課し、 国内マーケットから締め出すという動きを見せています。
ス○o○-50 などは、粗悪品の代表として有名となりましたが、米国内販売が困難になるや、 日本市場に狙いをつけるという商魂逞しいところを見せてくれています。
インチキ添加剤に共通した宣伝文句として、次のようなものが挙げられるので注意するように という警告も発せられています。
曰く、「NASAが開発」「〜軍認定」「〜軍に採用」「〜大学と共同研究」


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