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第1話 「人生を楽しもう・・Z1を手に入れるまで」

(作成:1997年11月16日 改訂:1997年12月22日)

(TEXT : 三四郎 / Z1 & E36-328i )

さて、日本では欧米とは違って大人になると「趣味は自動車です」なんて、なかなか 言い出し難い雰囲気があると思うのですが、皆さんは如何でしょうか。
そのうえ自動車は、化石燃料の枯渇、二酸化炭素の増加による温暖化の進行という地 球規模の問題や、交通事故、廃車処理など身近な問題にも直面しており、どうもこの 頃はマイナスのイメージが強いと思うんです。
内燃機関で動く自動車、とくにスポーツカーのような車に気兼ねなく乗れるのも、も しかしたらもうそんなに長くはないのかなぁ?。最近、そんな思いがしてまして、Z 1を手に入れる切っ掛けにもなっています。
以下はZ1を手に入れるまでの話ですが、よろしかったらお付き合い下さい。


★潜在意識の中のZ1

Z1は、‘87年のフランクフルトでデビューして以来、気になるBMWの1台だった のですが、何せ生産台数が少なく正規輸入はされない、値段も高いということで、自 分の気持ちの中では遠い世界のモデルと言った感じでした。
実車を初めてみたのは‘91年の冬。当時懇意にしていたディーラーのショウルームに デモンストレーションのため展示されていた車で、もちろん試乗は無理でしたがコク ピットに座らせてもらいました。
当時は325ixのMTに乗っていましたので、エンジン、ミッションが共通のZ1に は、その時には正直に言って性能の面からは強い憧れはありませんでした。また、箱 型の車を維持するだけでも大変でしたので、屋根の無い2人乗りの車に至っては自分 とは無縁の世界といった感じでした。
その後しばらくして、Z1が生産中止になることを知り、「M1といいZ1といいB MWで1のついたモデルは何か薄幸というか悲運を感じさせるなぁ」との感慨を抱き つつ、時が流れるにつれZ1のことは意識の隅の方へと退いて行きました。また、愛 車も、MTのE30からATのE36へと乗り継ぎ、最近はすっかり安楽ドライブを 決め込んでいました。


★Z3との出会い

そんな状況のなか、‘97年2月のことですが立ち寄ったディーラーで「Z3の試乗車 が来たので乗りませんか」との誘いがありました。実車は前年の夏にNYのディー ラーで見ており、その際カタログも頂いてましたので、「折角だから乗ってみよう か」と淡々とした心持ちで試乗に臨みました。
黒のMTで走行700Km足らずの新車、幌は下げた状態でした。6年ぶりの左ハンドル・ MT車でしたが無事に発進、試乗が始まりました。


★ウイルス?の目覚め

今から思うと最初のシフトアップの瞬間にウイルスが目を覚ましたようです。車速が 上がり車内にほどよく巻き込まれてきた風を肌で感じると、思わず笑みがこぼれてし まいました。エンジン音の変化を聞き分けながら両足と右手を連携させ久しぶりのシ フト操作を繰り返していると、「ああ今自分が自動車を操っているんだなぁ」という 実感が、味覚を除く全ての感覚器から沸き上がってきます。 これは楽しい。本当に 楽しい、自動車の運転ってこんなに楽しかったんだなぁ・・。
少し落ち着いたところで、良く観察してみると、ヒーターが良く効いて冬でも全然寒 くない。そして乗り味は、すっきりしたステアリングフィール、がっちりしたボディ の剛性感、うーん、ちゃんとBMWテイストを守っていてとても心地よい。街中を ちょっと早めのペースでキビキビ走るのであれば十分なパワー。そして何より、フル オープンの開放感、風を感じる気持ち良さ。僅か20分足らずの試乗でしたが、オープ ンスポーツの魅力にすっかり参ってしまいました。

その後、オープンの雄である英国M車のお店に立ち寄り、試乗させてもらいました (以下は私の個人的な感想です。M車ファンの方、関係者の方、気に障ったらごめん なさい。)。うーん何だこれは・・?。ステアリングは何かムニョムニョしてる、乗 り心地はゴトゴトした感じ。エンジンを背中に背負った感じは何となく気分が出るけ ど、BMWとは味わいが違いすぎるぅぅぅ。
BMWに10年以上も乗ってると、体の中にBMWの乗り味を良しとする“免疫”らし きものが出来てしまい、それ以外のものを排除するようになるようです。その後も時 間を見つけては独、伊のオープンカーやスポーツカーもチェックしてきました。で も、やっぱり戻ってしまうんですね。BMWに…。


★もう一度MTに乗りたい

自分の気持ちを整理してみると、オープンであることよりも先に、まずMTでなけれ ばならないという思いが強く、もちろん、オープンであればさらに望ましいというも のでした。MTに限ってみれば、Mエンジンの存在もとても気になります。それか ら、ちょっと大袈裟ですが、これからの人生を一緒に年を重ねて行けるような車も欲 しい。E36、E30のM3、Z3など、それぞれ真剣に検討し始めました。でも、 2台の車を持つことは経済的にとても大変そうだし・・と決め手がなく思いだけがグ ルグルと巡っていました。


★運命の出会い

そんなある日、雑誌でZ1が売りに出ているのを偶然見つけ、それも実家の近所のお 店だったため、初めてZ1をつぶさに観察することになりました。実車を見たのは ミュンヘンのミュージアムに展示されていたのを含めても僅か4回目、日本ではいわ ば幻のBMWに近い存在ですから感動ものでした。ショールームの中に展示されてい た車は、長年大切に保管されていたせいか、登録後6年以上を過ぎた車には見えませ んでした。走行距離は僅かに8300km、タイヤも製造ロットをみるとオリジナルのまま でした。
車のことを色々教えてくれたマネージャーも、実はアルピナZ1とノーマルのZ1の 2台を所有。「ここまでコンディションのよい車は今後もなかなか出てこないと思い ます」と殺し文句を一言。さらに、先約者が商談中であるが、明日中に手付けを振込 めばその商談をキャンセルする、というではありませんか。とにかく、少し頭をクー ルダウンしてから考えようと、見積り書をもらって帰りました。


★迷い

その日は帰ってから、本やVTRが入っているダンボール箱をいくつもひっくり返し て、Z1関係の資料を引っ張り出してきました。車自体は、開発当初は市販すること は二の次に考えられていたほど革新的なもので、しかも殆どハンドメイド。BMWの 歴史のなかでは、必ずしもエポックを画した車という訳ではないかもしれませんが、 意欲的な車として語り継がれることは確かでしょう。
しかも、憧れの対象として見た時には魅力の無かった量産車と同じパワートレーン も、所有するとなればむしろ耐久性の面で魅力ですし、また、シャーシーも全て亜鉛 メッキ、ボディーはプラスチックですのでクラッシュさせなければ長持ちしそうで す。そう考えると、BMW好きの自分にとっては理想の1台であることに疑いの余地 はありませんでした。
それに、体力、気力とも充実した状態でこの手の車に乗れるのも、だんだん限られて 来ているし、一度きりの人生、好きなように楽しむのもいいのかなと思う気持ちもあ りました。
しかし、宮仕えの身にとって日常の車とは別に趣味の車を持つことは大変なことで す。朝になると現実に引き戻されて、やっぱり分不相応という思いが強くなり、結 局、お店には連絡すら出来ませんでした。


★再会、そして決断

自分では諦めたつもりでしたが、その後も気になってしかたなく、1か月ほど過ぎた ある日、売れてしまっていることを願いながらお店を再訪しました。ところが車はま だ置いてあるではないですか。なんと先約者は資金手当てが出来ずにキャンセル、そ の後も折り合う買い手が現れず、あと1週間だけ店に置いて買い手が付かなければ、 某ディーラーが引き取るということになっているとのことでした。
ぼんやり眺めていると「とにかく乗ってみて下さい」と言われ、でもショールームか らどうやって出すんだろう?、と思って見てると店の後ろの壁を動かして展示中の他 の2台の車をどけて、と大変な騒動になってしまいました。「乗ったら戻れないかも しれない」との思いがしたのですが、今更「帰ります」とも言えなくなってしまい、 Z1の初体験となりました。

まずはサイドシートでの試乗、動き出して直ぐに感じたことは、乗車感覚の違いでし た。うまく表現出来ないのですが、まず着座位置が低く視界が違います。そしてトッ プが無い分だけ重心も低い感じで、コーナーでは車自体はロールしているのでしょう が、あまりそれを感じません。
幌を上げて、さらに両側のドアを下げて走ったのですが、とにかく爽快極まりなく自 動車というよりは一種のスポーツギア(良い喩えではないのですが、サンドバギー車 やジェットスキーのように純粋に遊びを楽しむためのエンジン付きの道具といった感 じです)だなぁとの印象です。
次に自分でもステアリングを握りましたが、感覚的に前後重量配分の中央付近に自分 の体が収まっている感じで、ステアリングを動かすと車が自分を中心に向きを変える ような感じがしました。バルブタイミングを制御している最近のエンジンよりも明瞭 にトルクカーブの山を感じられるM20エンジンも気持ち良く、とにかく乗り出すと 楽しくて楽しくて、もっと乗っていたいなぁと思えてなりません。


★ありがとう、BOHP

結局、試乗の興奮覚めやらぬまま勢いで売買契約書にサインしてしまうことになりま したが、自分で決めたこととは言え、週末が終わり普通の人たちと接していると、自 分はとんでもない道楽者なのなのかな?などと思ってみたり、しばらくは複雑な心境 でした。私にとっては、とんでもない大金を趣味のために費やしてしまった訳ですか ら・・。
迷った末に決断出来たのは、BOHPの皆さんのBMWへの思いに自分自身も励まさ れたということが大きかったように思います。個人的に親しくさせて頂いている会員 の方々の意見や、MTさんとO-chanのオープンカーについてのエッセイ、「さし」さ んのZ3購入までのいきさつ、などは心に触れるものがありました。

CGの小林彰太郎さんは好きなモータージャーナリストの一人ですが、「On the road」という近刊の扉で、次のような趣旨のことを書かれています。
「外国では、個人がのびのびと、自分の好きな趣味をエンジョイしており、誰もそれ についてとやかく言いません。オールドカーの趣味も、そのひとつに過ぎないので す。それぞれ自分の好きな古い車を手に入れると、たいていはその銘柄やそのモデル だけのクラブがあり、さっそく入会します。クラブのなかでは、メンバーはまったく 対等です。年齢も社会的地位も、性別も国籍もまったく関係ありません。民主主義の ルーツは、こうした同好者のクラブにあるのではないでしょうか。」
自分にとって、今のBOHPはまさに小林さんが書かれているクラブに他ならず、と ても居心地の良い場所です。ありがとう、BOHP!

さて、前置きが長くなりましたが、次回からはZ1とはどんな車なのか、といったこ とを書いて行きたいと思っています。


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