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第11話 「Well−Balance」

(作成:1997年6月3日 改訂:1997年7月23日)

(TEXT : BOND / Z3)

エンジンを再度目覚めさせ、車をスタートさせる。
脇道から再び海岸沿いの国道に出る。
波の音は、エンジンと風の音で聞こえてこないが、風に潮の香りを感じることはできる。
休日の海岸線は「仲間」が多い。 MG、コーベット、スーパーセブンなどが往来する。
今日の世界的なライトウェイトオープンスポーツカー・ブームの火付け役となった、 某国産ロードスターももちろん一番数多く走っているのだが、 何故か幌はしまっている確率が高い。

海岸線の緩やかなカーブを気持ちよく駆け抜けていく。
Z3のハンドリングは、他のBMWのご多聞に漏れず非常にシュアだ。
BMWのステアリング・ギアレシオは「よく回る」ことで有名だが、 Z3のギアレシオは少し早められているため、より一層、 ハンドリングの正確さが強調されている。
このような緩やかなカーブの連続する道を流していると「素性のよさ」のようなも のが感じられ、ワインディングに持ち込みたいという衝動に駆られる。

と、いうことで、小高い丘の上を目指して、再び国道から逸れることにする。
登りの農道をそこそこのペースで駆け上がっていく。
きついベンドが多い道だが見通しが良いので、ある程度ペースを保つことが出来る。
とは、いえ、まだ各部の馴らし中であるから、ペースはたかがしれている。
やはり、ワインディングでは、なお素直さが確かめられた。
ステアリングを切れば、まさに切っただけ車が曲がる。
当たり前のことなのに、なぜBMWだとこんなに楽しいのだろうか?
ドライバーの感性にシンクロして、車がその方向を変えだす。
まさにこちらが期待した通りの振る舞いを示す。
あるいは、挙動が素直なので、ドライバー側が車の動きを予測しやすく、 それを「ぴったり一致」と捉えているのかもしれない。
この辺りの「感触」は、どんなに他人に説明してもなかなか通じないものだ。
皆さんもご経験がお有りなのではないだろうか?
車にそれほど興味を持たない人に「なぜBMWに乗ってるの?」と聞かれて、 「乗ってて面白いから」、「運転が楽しいから」と答えても解ってもらえなかった、 ということが。

コーナーリングで感心させられるは、立ち上がり時のトラクションの高さだ。
もともと、必要充分なパワーしか持ち合わせていないから、コーナー出口で不用意 にスロットルを開けてもテールがダンスすることはないが、後ろからグイグイ押さ れるような感触で加速していく。
時には、パワー・アンダーステアが出るほど、リアのトラクションが高い。
225という不相応なワイドタイヤとLSDの効果もあるのだろうが、 やはり50:50の前後重量配分が効いているのだろう。
50:50の重量配分は、まさに理想なのだろう。
この理想のバランスを得るためにBMWはFRにこだわり続けていくのだろう。

適切な前後重量配分のメリットは、何もコーナリング時に限ったことではない。
ブレーキング時もまた然りだ。
少しハードなブレーキをかけたときでも、4輪がググッと沈み込んでいくようで、 全く危なげが無い。
フロントヘビー、特にオーバーハング部分の重いFF車だと、前につんのめるよう な姿勢になり後輪の荷重が不足するので、安定性が損なわれてしまう。
ブレーキのペダルタッチもそこそこ良い。
踏み始めに若干スポンジーで頼りない印象を受けるが、グッと踏み込んでいくと踏んだだけの 制動力が得られ、剛性感も出てくる。
この辺りのリニアな制動力の立ち上がりもドライバーの感性に忠実だ。
多くの国産車では、初期制動は強力なのにそこからペダルを踏んでいっても制動力 が増していかない感じを受ける。
た・だ・し、ディスクは国産車のようにはもたない。
ホイールも汚れる。
まぁ「ご愛敬」だろう。

前述のようにギア比が早められたため、ステアリングの手応えは他のBMWよりも 重くなった。
シフトもisに比べてストロークが短縮されたため、重い。
アクセル、ブレーキ、クラッチのペダル類も含め、総じて操作系は重い。
エンジンも低速トルクが厚いおかげで、逆に回して走った(回さなければ走らない )時に得られる軽快感が希薄になる。
サスペンションは明らかにisより締め上げられているのに、操作系が重いおかげ で軽快感はない。
乗り味は総じて重厚なのだ。
(パッセンジャー側はどう感じるのかは分からないが。 操作系に触れていない乗員の印象はまた違うかもしれない。)
これは意外だった。
自分のイメージでは、Z3のキャラクターは、isよりも軽快感があると想像していた。
しかし、Z3とis(1.8l)を直接乗り比べてみたら、Z3の方が重厚で、isの方が軽快なのだ。
もちろん、両者共に不満があるわけではない、あくまでも「意外に感じた」というだけの話だ。

さて、Z3とisの比較で今日はもう一点述べよう。
メカニズム面で大きく異なるものの一つにリアのサスペンション形式が上げられる。
isのセントラル・アームはさすがにBMWに伝統のセミトレーリング・アームを 見限る決心をさせただけのことはある。
いささか、E36も古くなってきたとはいえ、セントラル・アームの操安性と乗り 心地の両立は見事だ。
スプリングはドイツ車にしては意外にソフトな部類に入ると思うが、ロールしつつ粘る、 懐の深い性格を見せる。
(トランクルームへの張り出しがマイナス点だが、納得させられるだけのものはあると思う。)
セミトレも決して劣る物ではない。
何しろ歴史がある。
熟成度合いが違うのだ。

世界中のカーメーカーが前ストラット/後セミトレの組み合わせを真似したのだ。
悪い訳がない。
しかし、例えばコーナリング中に段差を乗り越えるような場面では、 リアがバタツキ気味になる。
isではこんな場面でも軽くいなしてしまう。
絶対的な限界点も高いのだろう。
ただし、断っておくが、この比較ではタイヤ/ホイールサイズが異なる (is:標準205/60R15 Z3:225/50R16)ので、話半分で聞いておいて欲しい。

しかし、いずれにせよ、ドライビング・プレジャーを与えてくれることに変わりはないのだ。

同じBMWが作ったクルマなのだから。
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