『南橘北枳』
南の「ミカン」、北では「からたち」の意。
気候・風土が違えば人の気質もまた違う。
さらには環境や境遇が移ろうにつれ、人の心もまた同じからずやってとこですか。
独逸国の由緒正しき家柄に生まれながら、
何の因果か極東の島国くんだりまで売り飛ばされた哀愁のババリアン1)、
季節の変わり目なんぞに御機嫌ナナメになるも詮無きこと。
皆様のとこのお嬢様2)は異郷の寒さにもめげずに御元気でしょうか。
で、『独逸モノ』……
日本人、なんかこの言葉に弱いんですよね。
「かの地の人々は質実にして合理的、
故にその造るモノも骨太頑丈で細かいデテールにしても全てに意味がある。」みたいな。
確かに独逸ハガネに刃物、光学器機や工作機械などなど優秀なドイツもの3)、
枚挙に暇がありません。クルマでいえばVWなどその名の通り大衆車ではあっても最高の大衆車だし、
ベンツなんてほとんど「参りました」の世界。
カッコがいささか変テコリンでも使った感じが無愛想でも4)、
とにかく最高のモノを持ったという所有欲は満たしてくれます。
ところで、我々日本人はドイツと纏めて引っ括ってますけど、
実は一つの国家になったのは高々100年前ぐらい。今でも地方色って残ってたりします。
国の名前も「連邦」ってぐらいですから。
特に、北と南、つまりゲルマン人/プロイセンと
ババリア人/バイエルンでえらい違い5)。このあたり、
徳大寺の大巨匠先生などもいろんなところで書いていらっしゃるので御記憶の方も多いかと思います。
そこで前記の日本的ドイツイメージなんですが、まあ、
これは北ドイツのゲルマン/プロイセンについてはほぼ正解。
ところが南ドイツのババリア/バイエルンになるとちょっと違う。
ババリア人はドイツ人の中では例外的に社交的で情熱的。
お友達になりたい、お付き合いしたいタイプが非常に多い。
滞独経験のある人は人種を問わずこう言い放って憚りません。
その上都会的というか、北の方々とは違ったダンディズムを持ってらっしゃる。
なにせミュンヘンという街は、その昔ウイーン・パリと流れる文化の風道の只中に位置してまして、
逆に北と南6)とはあんまりカルチャーの行き来がなかったようです。
ウイーンといえばハプスブルグ家のお膝元にして重厚なヨーロッパ文化の本家本元だし、
パリはいにしえからモダニズムの発信地。もちろん我らがBMWはババリアンスピリッツに溢れるクルマ。
眺めて「うっとり」、乗って「あゝ…」の
ドイツ製だけどラテン風味7)と相成るわけです。
だから、「これ不便だなぁ」「デザインです」8)ってなことも平気で言っちゃう。
加えて、都会人ってのは昔から繊細で華奢な作り9)と相場が決まってます。
よって普通の人間が普通にお付き合いする分には、
「三千世界の烏を殺し、主と添い寝がしてみたい♪」
な〜んて喉を鳴らして擦り寄って来てくれるんですけど、
普通じゃない人間が普通じゃないあしらい方をするってえともう不可ませんね、こいつは。
「アチキは浅黄裏は好かないでありんす!」
とくる。引っ掻きやがるんです10)、キカイの分際で。生意気でしょう。
まあ、都会の遊びにはそれなりのキメ事約束事、不文律ってもんがあるんですね。
「粋」とか、今様に申せは「あーばん・でりかしい」11)。
つまりベンベ様コロがすにはオーナー様のほうにもそれなりのダンディズムってもんがいるらしい。
このあたり充分踏まえないと、ババリア的(≠ゲルマン的)合理性って理解できません。難しいもんですねぇ。
で、
しかしやっぱり日本は異郷。かの地では、ちょっと郊外に出ればそれこそ県道じゃなくて道道○号線状態が普通。
こっちの普通、あっちの非常識。ババリア的合理性が度々裏目に出ることもあって当然。
外車の宿命ですね、これ。事情はアメリカでも同じみたいです。
去年の暮れのこと、インターナショナルBMWライダーズのML12)見ておりました。
そこのポストに曰く、
「今日、ディーラーからリコール13)
の手紙が来た。アイドリング長くやるとカウルがトロけたり塗装が焦げたり、最悪バイクが燃えるって。」
この後、アイドリングネタでMLは大層盛り上がり、
「おめー、チョーク引いたまんま何分アイドリングしてんだ」
「コーヒー1杯啜る間だ」
「おめーのコーヒー1杯、どんだけヒマかかるんじゃ」
的会話がしばし続いて14)おりました。
ちなみに本国では無用のアイドリングは一切御法度、コーヒー1杯じゃなくて煙草1本分でも肩身狭いです。
肝心の対策ですが、結局RSフルカウルのオナハンにその旨記載したページを追加することと、
警告ラベル15)をトップブリッジに貼付することでお仕舞の模様。
PL法先進国らしい厳密さではあります。
確認はしていません16)が、
昨年モデルあたりから何らかの改善が施されたらしいです。
ちなみに、日本でも事情は同じらしくウチのディーラー(動研)では納車時に口頭で注意してるとか。
RSL/RT乗りの皆様、ご注意下さい。
それから、エキパイがらみでもう一つ。パニアケースのマフラー側に貼ってある遮熱材、あれもあっさり落っこちます。
これはエンブレムが落っこちたってほど平和では済みません。第一後ろで気がつかない。
第二に出立前にいちいちパニアの下側なんて確認しませんよねえ、普通は。特に付けっ放しなら。
これ、気がつかずに走っていると夏場なんかすぐにパニアとろけます。
とろけると中身ぶちまけ17)ます。
お財布と予備のオイル缶はマフラーと反対側のパニアに入れることを強く推奨。
あと、パニア装着しっぱなしも実はNG。
ベース18)の爪のところに砂噛みやすくて、
放っておくと車体側、ベース側とも削れてガタが来るそうです。ツインの振動って結構馬鹿にならないんですね。
ドイツじゃこの振動でリアのウインカー落っこちた奴もあるほど。
パニア付けたままカバーかぶせて一冬おいて、さあ春だぞとばかりに走り出したとしましょう。
数ヶ月しないうちにかなりの確率でいってくれるそうです。修理は工賃込みで数万円コース也。
ちなみにあのパニア、雨ん中走ると浸水しますから中身はビニール袋入れといたほうが無難。
ツーリング中夕立に遭遇、運悪く雨具忘れてパンツまでびしょびしょ。
やっとの思いで宿に辿り着いてさあ着替えよう……、
悲しいですねぇ、侘びしいですねぇ19)。
で、
E30で苦労して、よせばいいのに性懲りも無く今度は二輪にまで手ぇ出しちゃった愚者の小生、
ほんとBMWは難しいです。
四輪の場合は北の三点星が、二輪の場合は小賢しい日本車が美味しいとこ腕力にモノいわせてすぐ持っていく。
誇り高きババリアンは意地でも真似なんてできん。真似できないけど同等以上のモノにはどうしてもしたい。
だからババリアン的解釈と発想のオリジナルでいく、まあ時としてかなり強引に行っちゃうこともありますが。
結果、確かにスマートで官能的だけどドイツものにしては
少しばかり虚弱・神経質・不可解なキャラクターに仕上がっちゃう。それがベンベの魅力なんですけどね。
ここ十年の愛と苦悩の日々(笑)、
振り返ってみてつくづく思うのはベンベってのは二輪四輪問わず此奴ら絶対に猫ですよ、それも雌の。
……難しいハズですねぇ。
今回はこれにて〜「なつかない猫」20)〜のおしまい。
皆様、お風邪など召しませぬ様に。アウフ・ビーダージーンー!