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第12話 「アリスト試乗記」
(作成:1997年10月13日 改訂:1998年4月25日)
(TEXT : そえそえ / E39 528i )
トヨタの新型アリストが発売になりました。サイズ的にはE39にも近く、走
行性能にもこだわっているとの噂。はたしてどれほどのものなのか、その実力
を確かめるためにさっそく試乗に行ってきました。
<まずはカタログデータ比較>
試乗の前にカタログデータの比較を行っておきましょう。相手はアリストV300。
3000ccのターボモデルです。
アリスト(4AT) E39−528(5AT)
車体寸法 4805x1800x1435 4775x1800x1435
ホイルベース 2800 2830
トレッド前 1535 1510
トレッド後 1515 1525
オバーハング 835/1170 約860/1090
車両重量 1680kg 1570kg
最小回転半径 5.5m 5.3m
燃費10/15モード 8.8km/l 7.9km
燃費60km定地 16.7km 15.6km
エンジン形式 直6DOHCターボ 直6DOHC
排気量 3000cc 2800cc
最高出力 280ps/5600rpm 193ps/5300rpm
最大トルク 46.0kgm/3600rpm 28.5kgm/3950rpm
使用燃料 Premium Premium
ミッション 4AT 5AT
タイヤ 225/55R16 225/55R16
0-100km/h 5.9sec 8.6sec
前後重量配分 54:46 51:49
CD値 0.30 0.30
値段 446万 613万
*オーバーハング
528を基準にすると、アリストは全体的にタイヤが前に寄っていて、ベンツ
のEシリーズに近い配置となっています。オーバーハングを切りつめながらト
ランクにゴルフバックを4個積むスペースを作ための策と思われます。デザイ
ン的にはアンバランスですが、あくまで実用性を取ったと言うことなのでしょ
う。逆にトランクを削ってでも、デザインの前後バランスにこだわるBMWの
こだわりが浮き彫りにされます。
*最小回転半径(取り回し)
アリストの5.5m標準的な数字ですが、BMWの5.3mの小回り性能はさ
すがです。確かに運転していても大きさを全く感じません。ちなみに手元にあ
るカタログデータをいくつか見てみると
ベンツE...5.2m
*BMW5..5.3m
セルシオ...5.3m
ソアラ....5.4m
*アリスト..5.5m
セドリック..5.5m
プリメーラ..5.5m
ギャラン...5.8m
*ボディ構造と前後重量配分
アリストの設計者は、BMWのハンドリングを実現するためには高剛性ボディ
構造と50:50に近い重量配分比が必要なことはわかっていたようです。しかし
運動性能より安全マージンを重視したベンツ方式のボディ構造(しなやかな構
造、BMWほど車体全体の剛性は追求しない)を採用し、重量配分でも室内空
間を確保するためエンジンの搭載位置を十分に後ろにずらす事ができずに54:
46の比になってしまったとのこと。根本的なハンドリング特性にはあまり期待
できませんが、電子デバイスでどこまでごまかせるかが勝負です。
*パワー
パワーはアリストの圧勝ですが、重量で110kgも重く528の5ATに対し
てアリストは4ATなのでフィーリングも含めると単純な比較は難しいところで
す。(アリストは海外仕様は4L/3LのNA+5ATというラインナップ。
一方日本仕様ではなぜか4ATのみ。トヨタの販売戦略はいつも??です。)
*燃費
カタログ上の燃費はアリストのほうが良く見えますが、日本車のカタログ燃費
は実際の燃費との差が大いのはご承知の通り。(高速燃費では相手がNAモデ
ルでも528の勝利がほぼ確実。市街地燃費はやってみないとわかりません
が、多分アリストNAモデルと528は同じくらい。付録の燃費の話参照)そ
のうちに雑誌やネット上で実力が報告されることと思います。
値段は167万の差がありますが果たしてどれほどのものなのか興味があるとこ
ろです。
<528参上!>
会社の帰り道にトヨタのディーラーの前を通ると,偶然店の前にアリストがと
まっているのを発見!当然試乗車に間違いありません。早速Uターンしてアリ
ストの隣に528を並べました。
<外見は?>
アリストは確かに目立つデザインです。遊び心たっぷりの、かなり好みの別れ
るデザインといえましょう。アメ車の中小型クラスの車のような、先鋭的な印
象を受けるデザインです。うーんなんていうかこてこて。アメリカのデザイ
ナーの作品なのでしょうか。個人的な感想を述べると、試みは面白いのです
が、各パーツのあくが強すぎて、まとまりがないような印象を受けます。バラ
ンスを整えるためには各種エアロが必須と思われます。
<内装の違いは?>
従来からいわれている通り、トヨタの内装の部品の質感にはすばらしいものが
あります。しかしデザインの話になと???がいっぱいついてしまいます。ほ
んとこの車はどの辺りの購買層をねらっているのか何を考えてるのかよくわか
りません。たこつぼ式メーター(タコメーター、スピードメーターなどが独立
した3つの穴に収まっている)は若者向け?、木目調(木目ではない)パネル
(高級感をだすため?)とプラスチックのドリンクホルダーカバーの見事なコ
ントラスト。シフトゲート式のATは一定の条件下でマニュアルシフトも可能な
優れものでスポーツ性を演出してますが、なんで足踏み方式のパーキングブ
レーキなの?(お年寄りに配慮ということか?)
うーんよくわからん。やっぱり個々の部品の質はいいのだけど、まとまりとか
コンセプトとかがないんだよな。。。。。ただ部品をくっつけましたっていう
感じ。全体的にみると1+1=0.5という変な方程式が成り立ってます。非
常にもったいないです。
<トランクを見てみました>
トランクは浅いが広くゴルフバック4つは入りそうです。GOOD!(528は3つ
ぐらいが限界)但しそのために、尻でかのボテッとしたデザインになってし
まっているのは残念です。難しいところですね。
<試乗開始!>
外見や内装はともかくとして、性能は乗ってみないとわかりません。キーを挿
し込み1段階ひねるとブラックアウトされているたこつぼの中からメーターパ
ネルが浮き出て来ます。おお革新的な雰囲気!でもちょっと子供だまし。せっ
かくだからセルシオのように黒地に白のほうが大人っぽくて良かったのに。
でもこのメーター視認性にやや難があります。独立した穴のかなり奥にパネル
があるので、視線の移動でメーターの見えかたが大きく変化し(3D映画を見
ている様な感じともいえる)酔ったような気分になってしまうのです。これは
ちょっといただけませんでした。
<静寂性はいかに>
それはともかく、とりあえすエンジンをかけてみました。528と同じくアイ
ドリングはスムース且つ静かです。ビビリや共振は一切ありません。少しアク
セルを踏むとエンジンの音の高まり無しにすっと車が前にでます。店の前の国
道に出てアクセルをじわっと踏んでいきます。3000回転を超えてもエンジンの
音の高まりはほんの少しでアイドリングと変わりません。ただしロードノイズ
を主とするエンジン以外の音がややうるさく感じます。ロードノイズを押え込
みつつエンジン音を聞かす528とは違う設計思想ですね。すべての音を合わ
せたノイズレベルは528とアリストでは同じくらいのレベルです。ロードノ
イズはタイヤの性能による部分も大きいのですがアリストはスポーツ系タイ
ヤ、528は静寂性重視のタイヤを標準でつけてます。ハンドリングの気持ち
良さをタイヤのグリップ力に頼らない528の基本設計の優秀さがわかりま
す。また静寂性をタイヤに頼らないアリストの静寂性もすばらしいものといえ
るでしょう。
<低速試乗での感想>
MAXパワーはアリストの圧勝ですが、110kgも重い車重と4速AT+ターボラグと
いうことで低速でのちょこまかした取り回しは不得意のご様子。
市街地でおとなしく運転しようとすると、ちょうどトルクが出てきたと思った
瞬間にシフトアップが入るのでぎくしゃくしてあまり乗りごこちは良くありま
せんし、アクセルコントロールもいまいち。やはり、この辺の領域はやはりN
Aの528方が良いようです。
<噂のステアシフトを試してみました>
通常のスポーツモード付き4ATと組み合わせても宝の持ち腐れ。シフトチェ
ンジがステアリングのボタンでできるというだけで、目立った効果は何もあり
ません。おもちゃと考えるのが妥当です。
但し、将来5ATとか6ATとか出てきたならそれなりに有用な場面も増える
かもしれませんね。
<全開加速!>
次に全開加速を行ってみました。アクセルを踏みこみフルブースがかかると、
もうドライバーの手にはおえません。敵はいませんが、歩行者や車が飛び出し
てもよけることはできません。制御不可能な”野獣”の加速が始まります。同
様なパワーでも540の強力かつコントローラブルな加速とは明らかに質が違
います。やめてーっと言いたくなるような緊張感です。マゾか!
<市街地で軽く流して見ました>
次にはアクセルのレスポンスとハンドリングを確かめてみました。アクセルレ
スポンスはターボ車にしてはすばらしいが、ターボ車であることには変わりあ
りません。ノンターボのアリストではどうなるのか次の機会にでも試してみま
す。
ハンドリングはかなり初期応答が速くクイックなハンドリングです。しかしハ
ンドルの切れ角とロールの深さと横Gの関係には妙な違和感があります(ゲー
ムセンターのシュミレーターのような不自然さ)。528のような人車一体感
はなく、どうもハンドルやアクセルが実際の動きとは微妙にずれるのです。ド
ライバーと車の動きの間にコンピューターという別の意志が割り込んで車をコ
ントロールしているのが明確に分かるのです。
アリストはこう申しています。「私にハンドルとアクセルで大まかな指示をだ
すだけであとはお任せください。私が自動的に運転します。」
え!私はお客さんですか!?
<ちょっとペースを上げました>
ちょっとペースを上げると印象も多少変わります。
普通に走ってもおせっかいなアリスト君ですが、ペースを上げると頑固者の運
転指導員になります。ドライバーの細かな注文やちょっとした無茶は、無視さ
れるか怒られるかさもなくば勝手に修正されてしまいます。ドライバー監視用
の各種電子デバイスは解除不可能です。なんか教習車に乗っているようです。
世界一速いセダンなのかもしれませんが、世界一面白くない車といえなくもあ
りません。
あああ。。。528が恋しい。絶対的なスピードはないけれど、まさに手足の
ように思うがまま。ドライバーの意志がストレートに伝わる車。それでいて高
品質で快適な車。528が恋しい。
<試乗を終わっての感想>
私はアリストを市街地の渋滞と、ちょっとしたワインディング路で試乗するこ
とができました。この車が本領を発揮する高速道路で試乗できなかったのは残
念ですが。感想を一言で言えばハイパワーでハイテクだけど全てが間接的なく
るまという印象でした。まさにコンピューターに運転代行を頼んでいるような
気分ですね。
車の価値判断は人により何を重視するかにより異なりますが。ただ単に速い車
が欲しいと言うのであればアリストも良い選択肢です。内装の質感がよいとか
あのデザインが好きというのであればそれもよいでしょう。3シリーズの値段
で手に入るし、信号ダッシュでは倍の値段の車達とも方をならべる事ができま
す。燃費を除くと、2地点間の移動手段としては満点です。
しかし私にとって、アリスト試乗はフラストレーション以外の何者でもありま
せんでした。運転の主役は車であって、ドライバーではないからです。パワー
には確かに引かれますが、いつもいつも信号ダッシュをするわけにもいかない
し。内外装は新鮮・大胆ではあるけれども、機能を考えずに単に部品をならべ
ただけのデザイン。すぐ飽きそう。。。。。。。で趣味としては×。足として
買うのは450万はちっと高いかな。V8で5ATでこの値段なら高級な足とし
てなんとか検討の余地はあるんだけど、今の4AT仕様で450万じゃ
ねぇ。。。。。。
160万の価格差を考えても、528の圧勝と締めくくっておきましょう。見
た目はアリストの方が派手ですが、作り込みの質が圧倒的に違います。
<おまけ:トヨタの営業の態度は?。。。最悪>
直接性能とは関係ないのですが。。。。あまりにひどかったもので書いてしま
いました。
試乗中に一言質問するたびに”じゃあ買いませんか””じゃあ見積もりをとり
ましょう”などといって直接的に購入を要求され、”BMWに乗っているひと
は。。。。。”といったような一言一言がしゃくに触るような事ばかりいうい
やな営業でした。これが450万の車を売っている営業の態度だとはとても思え
ません。トヨタの営業方針はいろいろ批判もありましたが、生まれて初めてそ
れを実感しました。自分の売る車にプライドをもっていればそんな営業の仕方
はしないと思うのですが。トヨタのイメージはずいぶん悪くなったし、もう絶
対あのトヨタOOOの大和営業所では買わないし友人にも薦めません。
車も営業も態度のでかいトヨタでした。
<付録2 燃費の話(アリストとの100キロでのエンジン回転数の比較)>
次の数字は時速100kmでの計算上のエンジン回転数です。
回転数が高いほど高速巡航時の燃費は悪くなり、加速力は強くなります。
アリストV300(ターボ) 4速100km 2222rpm 長距離巡航燃費 約11.2km(-20%)
アリストS300(NA) 4速100km 2353rpm 長距離巡航燃費 約12.6km(-10%)
E39−528i 5速100km 2096rpm 長距離巡航燃費 約14.0km
E39−540i 5速100km 1887rpm 長距離巡航燃費 約11.9km(-15%)
動力性能の近い528とアリストNAモデルとの比較では100km巡航時の回転
数は257rpmもの差があります。エンジンやミッションの効率が同じと仮定する
と、これだけで燃費の差は6−8%ほどになります。排気量や車重や空力の差
を考えるとその差はさらに広がり、全体で約10%ほど違いが予想されます。
ターボモデルだとさらに燃費は悪くなることはあっても良くなることはないで
しょう。
*528の燃費は実測値その他は予想値です。
<付録3:アリストに初期不良多発>
5シリーズも初期のマイナートラブルがいくつかありましたが、アリストもか
なりの初期トラブルが発生しています。それも似たようなところが問題になっ
ているようです。例えば
・100キロでの振動(E39でも発生)
・1700rpm当たりでの不快な振動(E39でいうシフトケーブルからの異音に近いものか)
・電装系各種故障でモジュール交換(E39のGM交換に相当か)
・モール・ゴムの取付け不良
・各種異音(E39でもいくつかありました)
次のやつはしゃれになりません。ついにリコールがかかったようです。
・ブレーキ制御装置欠陥(走行中突然ブレーキがかかる)
幸いにもE39では同種の重大欠陥は報告されてません。ご安心ください。
そのほかにも、カーステの低音過多やブレーキのフィーリングが悪いなど、か
なりのユーザーに問題視されている項目もあります。アリストを始めプリウス
でも品質の問題がいろいろ出ているようですし、最近のトヨタは品質が落ちて
いるのでしょうか。輸入車が劇的に品質向上を果たしつつあるいま。国産とド
イツ車の品質の差はほとんどないように思えます。
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